Pencil ✒︎ Pencil

国立大学受験、浪人、フリーター、自衛隊受験を経て、22歳の時にADHDが発覚 心の師匠はB’z

スティーブン・ホーキング博士 ありがとうございました

 

 

無機質な団地、そしてそのベランダ

 

九九の早見表のような均質さ

 

はめ込まれた柵が、なんともイーッと笑っているかのように思われて、なんだか無性に腹がったのを覚えている

 

色とりどりの洗濯物をなびかせて、ほんのちょっぴりそこに住む人々の個性を覗かせているが、それらはキャラクターもののタオルであったり、花柄のシーツであったりするのだけれども、だいたい共通するのはご近所のイトヨーカドーで買えるような品ばかりであること

 

墨汁のようなヨダレを、だらし無く口から垂らしたかのような汚れた壁面と、その横の団地の住民のささやかなテラスに、人々のみすぼらしさに、その町に住む自分に苛立ちを感じていたのは小学五年生の頃の僕だった

 

僕は泣き虫で、カードゲームやサッカー、テレビゲームでも、何をしても自分はパッとしなかった

 

遊びの中でどれだけ他と比べて優位に立てるか

それが小学生男子の遊びの本質だったように思う

 

小さな町の中、小学生同士でマウントを奪い合うしょうもない競技のなかでさえ、自分は全く金メダルどころか、銅メダルも、努力賞も取れない存在だった

 

それでも、学校のテストは大体上手くいっていたし、自分の持つ知識もそれなりだと思っていた

 

それですら小さい町の中の、公立小学校の中だけの話で、悔しさに眠れないベッドの中から、ずっと夜空を眺めていた

 

ただ自分は他のクラスメートとは違う、自分はもっとすごい人間なんだと思い込みたかった

 

こんな小さな街なんか出てってやる

そんでこいつらを見返したい、見下したい

 

僕は最も安易で短絡的な手で自分の劣等感をごまかした

 

次第に周囲を自分から避けるようになっていった

そして教室の隅から勝手な理由をつけて周囲を見下し始めた

 

 

そんな自分の放課後の居場所は、公立図書館だった

 

周囲を団地に囲まれた、小さな図書館、人類の叡智を集めた小宇宙

窓を除けば否応にあの団地が見えてしまうから、そこは見ないようにして、本棚からニョキっと顔を出している札だけを見るようにしていた

 

絵本・・

児童書・・

ティーン・・

料理・・

家庭の医学・・

宗教・・

教育・・

 

 

 

・・・科学

 

このコーナーがお気に入りだった

 

「宇宙の始まり」

超ひも理論

ブラックホール

相対性理論

「ビッグバン・ビッグクランチ

 

手に取った本をひらけば、難解な数式と、引用、脚注、専門用語の嵐

 

何一つわからないけれど、とても心が安らいだ

分からなくても、何かわかった気になれるし、実際宇宙のことを知るのにアインシュタイでさえわかった気になることまでが限界なのだから、この分野に関しては自分とアインシュタインは同じようなもんだ

 

自分の居場所はここにある

 

とにかく、そこで繰り広げられる話は想像しきれないほど超大で、強大だった

 

特にお気に入りだったのが、宇宙の終わりの話

 

宇宙から恒星が消え、ブラックホールすら蒸発し、粒子すら崩壊して、そして訪れる完全な無

 

でもそこに至るまでの時間は10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000年だとか書かれていて、最高に興奮したのを覚えている

 

そして、無限大の重力を持つ星の成れの果て”ブラックホール”にすら、寿命があるという話になんとも言えない諸行無常感を感じたし、なぜそうなるかは

ホーキング放射

という理論があるからだと知ってしまった自分に酔っていた

 

当時の僕は、とにかく小さな町のことなんか、矮小な自分を無視できるくらいの大きな話に憧れていた 

どうせ、この街もいつか消えて無くなる

そしてそんな話に触れることで少しでも自分を大きな存在だとごまかして、目の前の問題を無視し続けた

 

・・・

 

気が遠くなる宇宙話を繰り広げる学者たちはロックスターような存在だった

 

ホーキング放射という理論に大きく関わった人物

それがスティーブン・ホーキング氏に関しては、強烈に心を揺さぶられたというか、自分の持つ悩みなど宇宙デブリにすらならんと、でもその悩みから目を離してはいけないと、当時の自分がホンの少しでも思えたのは本当に彼のおかげだった

 

孤高の宇宙物理学者

車椅子の天才科学者

 

なんやねんそれ

最高にかっこいいじゃんか

 

字面だけ見た僕は最初そう思ったのだけれども、彼の写真を見た瞬間そんな考えが一瞬にしてビッグクランチした

 

あの車椅子の上から身動き一つ取れなさそうな体でも、頭の中だけは数式で描かれた崇高な宇宙が広がっている

小さな町どころか、自分の体から出られないのに、宇宙の真理への強い知的好奇心を抑えきれん純粋な瞳と、理論の有効さを賭けにする気さくな彼の人柄にマジかよ首を揺らすしかできなかった

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を患う苦労も知らずに、一方的に憧れを抱く呑気な僕はなんてバカなのかと

 

前途有望な学者としての未来を前に、体が動かなくなって2年くらいで死ぬと言われたら、自分なら発狂すると思った

 

それでも彼は、それすら受け止めて、50年間宇宙と向き合い続けた

 

それに比べたら、自分の小学校での悩み、ちいさなプライドだとかそんなことなんだっていうんだと、ほんの少しでも風穴を開けたのは多分彼が初めてだったかもしれない

 

 

競いもせず、見下しもしない、夜空を眺めてその完璧さにただ感嘆する

 

そんな生き方に憧れた

 

多分今もそんな彼に憧れている

 

ありがとう 博士

 

 

ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)

ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)